親族会議

 夜明け前、フェリーは那智港に寄った。しかし、よく寝ていていつ接岸し、いつ出航したか全然気付かなかった。
船がだんだん揺れが大きくなってきて目が覚めると、窓の向こうに紀伊半島が霞んで見えた。紀伊半島沖では黒潮が大きく蛇行するせいかもしれない。
 船は北上する黒潮をよけて、沿岸流を南下しているんだろう。静かだった海面には白兎が跳ね回っているのが良く見える。船の揺れを大きく感じたのはその時位で、後は殆んど静かに航行していた。

 9日夕方17:30宮崎港に着いた。
 辻のおじじが車で迎えに来ている筈だった。
フェリーを降りて見回しても姿が見えない。自宅に電話をしても、とっくに着いている筈だと言う。駐車場をうろうろすると、おじじの車を見つけたが姿がない。そのまま車のそばで帰ってくるのを待った。車のサイドには老人党の文字と、おじじの似顔絵が描いてある。一目で個性的な人と分かるようになっている。まったく、何処をふらふらしてんだか?とじっと待っていると、船のほうからトボトボやってくるのが見えた。
 「おい、何処におったか?じっと車が出てくるのを待っとったぞ!」の声が近づいてきた。
フェリーで来る事、即ち車で来る事、の発想だったらしい。一度も車で行くとは言わなかったが、車好きのおじじには無理からぬ論だった。

 「これからお前を歓迎して第3家族の親族会議を開くからな」と、おじじ。
第3家族とは、血縁関係にない親しい者同士の家族関係のことで、東京から来た娘(のような私)を歓迎して、親族会議を開いてくれた。
 「こいつはお前の姉ちゃんじゃ。これはその亭主で・・・」そんな調子で和気あいあいと焼酎を酌み交わし、料理をつまむ。
 「こういう関係こそ、新しい家族のあり方で、血のしがらみに縛られてはいかんのだ、もっと自由にサッパリとした関係こそお互いの幸せに繋がるんじゃ!」と、お酒が入るごとに舌滑らかにしゃべりまくり、
 「お前がこっちに来てくれて良かった良かった。わしゃ嬉しいよ~」
と、うっすらと涙を浮かべ、宮崎の第3家族と共に大歓迎の上陸で宮崎の旅は始まった。

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