標高2317mのプラン・ド・レギュイユでロープウェーを降りて、のんびりとハイキングをしながら、遠くの氷河を見たり、高山植物を探しながら下って行った。そのルートは娘達にお任せで、全然頓着なしでくっ付いて行った。
(高地では2800mが高山病に注意する指標になっている。この地点まで下りれば、ほぼ問題ないとされている。気圧は750hpa位になる。つまり空気がそれだけ薄くなっている)
花を見つけては、キャピキャピとしながら、写真を撮っては悦に入っていた。万事マイペースであった。だから、殆んど疲れはない。疲れそうになると花を見つけて撮影をするものだから、時々彼女達に遅れをとる事もあった。
ふっと、視線を遠くにすると、動いた分だけ景色が変わって、又パチリとやる。
モンブランから下に氷河が繋がって、雪山の部分が象の耳、細長く延びた氷河が象の鼻のようで、全体が象の頭のように見えるところがある。行く道の曲がり具合で、その象の頭が見え隠れするうちに、姿も変わって行く。
当初のルートはもっと北の方に行くはずだったらしい。そうとは知らない私は道なりにどんどん進んで行った。花に誘われるように進んで行った。
ところが、ここに来る前にどこかに分岐点があった筈らしいけれど、知らぬが仏で、ルンルン降りて行った。
疲れを覚えるようになって、大きな石に腰を降ろして深呼吸をする。
そばにはイワシャジンのような紫の花が清楚に咲いている。ツリガネニンジンの仲間には違いない。濃淡の花があちこちに咲いている。イワシャジンは日本の固有種と本には書かれているが、よく似ている。
「もう、氷河に出てもいいのに、出ないね。変だね。もっと北に行くはずじゃないの?」
と、ひそひそ二人で話している。
目の前に象さんがいるじゃない?あれって氷河でしょうに・・・?
1時間半のコースで、登山電車の駅に出るはずらしかった。時すでに2時間は過ぎて、私たちの他にだあれもいない。時々、登って来る元気な若者に出会うくらいだ。
いくらのんびりでも、もうとっくに目印があってもいい筈らしかった。
小さな滝があるらしく、時々ざぁざぁ水音が大きくなったり小さくなったり聞こえてくる。
日差しは段々強くなってくるから、日陰に入るとホッとする。
3時間も歩いていると、流石にふくらはぎが痛くなってくる。登りも大変だけど、下りは尚使う筋肉が違うのか、膝が笑いがちになってくる。
お腹もすいてきた。4時間くらい歩いたろうか、シャモニの町が見え隠れするようになった。道を間違えても、大筋で方角は分かるので、町にでるのは確かだ。
しかし、歩いても歩いても中々近づいていかない。時々、後ろ向きで歩くと少し楽な感じがする。もう、歩きたくないよ~と、思っても戻れないし、行くっきゃない。
日陰を見つけては腰を降ろして休む。少しは違って又歩かなきゃって気になるもんだ。
段々寡黙になってくる。それは仕方がない。
時々「お母さん!大丈夫?」と、声がかかる。
「別に~、どうってことないわよ。あと少しだから、ガンバンベェ~。
歩かないと、終わらないもんねぇ」
足が上がらなくなってくると、足元の石や根っこに躓きそうになる。くわばら、くわばらである。やっとのことで、ロープウェー駐車場の横に辿り着いた。平らな道というのは素晴らしい!非常に歩きやすい。万歳である。
駅前の通りでオムレツ屋さんを見つけ入る。クレープを頼む。出来るのがいやに早いと思ったら、温めなおして持ってきたようだ。がっかり・・・
「お母さん、ここは観光地だから、しかも目抜き通りの昼下がりでしょ。」
「そうだったわね。」
部屋で一休みをした。
足が痛いよ~と、手でさする。
夕焼けがキレイに色付く頃、アルヴ川沿いのレストランに行く。
テーブルは川沿いの良い席に案内してくれた。ラッキー!
ムニュで頼む。つまり、コースでアントレからデザートまで。
この店はフロントのお兄さんに聞いてきた。彼はスイス訛りのフランス語を話していたらしい。私にはよく分からないけれど、そんな事を娘は言って、多分良い店だと思うよ、と。
図星だった。盛り付けも、ウェイターも感じが良い。
待っている間に、夕焼けはどんどんと進み狭い視野の隙間に真っ赤に燃える山が見えた
窓からの景色も美味しいけれど、料理も大満足の美味しさだった。しかも、お値段は決して高くなかった。