スキューバダイビング初体験

 夜明け前カメラ片手に風田の浜に散歩がてら出掛けて言った。
 冷たい風が吹いていた。東の水平線は明るく盛り上がり、ゆっくりと太陽が昇ってきた。
野鳥が鳴きテトラのコンクリートの上を飛び回っている。赤みを帯びた空と鳥の黒い影、ふわふわした薄の陰が、私の小さなため息を誘った。風田とはよく言ったもので、この砂浜には風のこしらえた、風の模様風紋が何処までも広がりを見せ、散らばる小石には朝日が長い光を当て、美しい造形を作っていた。

日の出前 日の出 風紋

 朝の散歩から帰るとオババが近くの畑に野菜を取りに行くというので同行した。
 適当に朝食を食べていると、珍しくオジジはまだ寝ていた。夕べ呑み過ぎたらしい。それでもダイビングに出かける時間になると、「おい、行くぞ。忘れ物はないな。」と言いながらもう車のエンジンを掛けていた。
ワクワクしながら夫婦浦まで送ってもらう。そこは小さな漁港で、とても静かでかつ風光明媚な所だった。周りの様子を見回して、オジジに手を振りながら、Blue Diveというダイビングスクールに入って行った。
 インストラクターは若いお兄さん。簡単な説明を受け、質問票に記入をする。前日、何時間寝たかとか、酒は飲んでいないか、心臓病などの疾病は無いかなど等。取調べ?が済んでウェットスーツを着るのだが、これが大変。もうぴちぴちのスーツなものだから、着るだけで草臥れてしまう。やっとの思いで支度が出来、車に乗って磯の方へ移動した。そこで、水中メガネやボンベ、マウス、フィンを装着し、口での呼吸法を教わる。ゆっくりと深いところまで行く。やがて岩と岩の間をすり抜けて潜って行くと、可愛い南国の魚達が出迎えてくれた。ゆっくり、深呼吸をするようにして、フィンをゆっくりと動かして前へ前へそして、更に深く潜って行った。
着た着た!耳が痛い。鼻を摘まんでエアーを抜く。ふうっと楽になる。それを豆にやると良いという事で、ちょっと変になるとエアーを抜いて更に深く潜行した。時に片耳しかぬけない時もあったりしたが、慌てず騒がず、お兄さんに合図をして待ってもらったり、少し上昇してやり直した。広い所にでると、インストラクターはパフォーマンスをするから見るようにと合図をくれた。彼は仰向けになると、マウスを外し、口からエアーの輪っかを作って見せてくれた。
 水深6-7m位だろうか、サンドダラーという、平たいウニの一種が沢山砂に埋まっているのを見つけた。カラフルなイソギンチャクやイソバナの類の珊瑚など、グラスボートや水族館で見るのとは、同じようでもやっぱり違う。
 調子に乗って潜っていたら、片方のフィンが外れてしまったけれど、さりげなく装着しなおし、潜水を続けていった。気付くと水深11m位になっていた。段々、体が疲れてきた。方向転換をし、きた方向へと戻って行った。ゆっくり深呼吸をしながらも、心持空気が薄れたようで、吸う空気が不足しだしたような感じがして、より気分的に疲れが増幅してしまった。
 それでも、我慢して慌てず、静かにゆっくりと戻って行った。元の磯に着いて立ち上がろうとしたら、上手く立てずちょっと慌ててしまった。そう、フィンが邪魔して立ちにくかったのだ。いや~疲れた疲れた、疲労困憊だった。結局23分間潜り続けたのでした。
 浜に上がってボンベやマスクをはずすと、すぐに寝転んだ。喉も渇いていたので、ぐいぐいと水を飲み、しばし伸びていた。 
 器材の積み込み片付けを済ませたお兄さんとスクールに戻った。スーツを脱いで、暖かいシャワーを浴びる。とっても気持良いはずなのだけれど、気持悪くなって戻してしまった。余程疲れていたのかもしれない。着替えがすむとコーヒーを入れてくれた。何だかとっても美味しく感じた。お兄さんのいう事には
「初めての時が一番疲れるけれど、次からはもっと楽になりますよ。普段から水泳をしているから初心者にしては深くしかも長時間頑張ったですね。」だって。おだててくれた。
 折角のスキューバダイビングの体験も証拠写真を撮りそこねたのが残念だった。
 すっかり疲れもとれると、日南の風田まで真っ赤なクーペで家まで送ってくれた。

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