下弦の月も随分小さくなって、伊勢海老漁は始まった。今日はいよいよ東京経由で熊谷に帰る。
実家の母は首を長くして伊勢海老の帰りを待っている。
朝一、オジジは浜に海老を買いに行ってくれた。帰ってくるとぴょんぴょんと元気の良い海老を1匹づつ新聞紙に包みダンボールに詰めて行った。かなりの大きさになったがめったにこんな生きの良いものなど、東京では手に入りにくい。
それから宮崎からの土産にポンカンと知り合いの栽培するスイートピーの発送伝票を書き込みお金を預ける。支度が出来るとオババに別れを告げ、風田を後にする。
先ずポンカン農家に寄ってみる。相変わらず忙しそうにしている。1箱持って行くように言われたが持てないのでネットの袋にポンカンを詰めてくれる。そして、又お出でなさいね、と優しい言葉をかけてくれた。
次には宮崎空港に程近いお宅に寄った。ここのご主人はゴルフのクラブを加工をするほどのお方。毎年ゴルフシニア大会に出るオジジの為に、尽力してくれているらしい。オジジのアイデアに添うように加工して、もうちょいどうの、こうのと話している。熊谷から送った煎餅を手渡し、挨拶をして別れる。
空港に着くと、ネット予約をしておいたチケットを購入し搭乗手続きをした。伊勢海老とポンカンを残し後の荷物を預けて幾らか楽になった。その手荷物の中には「百年の孤独」という貴重な焼酎も入っていて、帰ったら父ちゃんにやるんだぞ、そして皆と仲良く飲むんだぞ、とオジジが持たしてくれたのだった。
すっかり世話になってしまって・・・。甘えさせて頂いてありがとう!!
たまにはこんな人間関係があっても良いかも知れない、第三家族。
夜明け前カメラ片手に風田の浜に散歩がてら出掛けて言った。
冷たい風が吹いていた。東の水平線は明るく盛り上がり、ゆっくりと太陽が昇ってきた。
野鳥が鳴きテトラのコンクリートの上を飛び回っている。赤みを帯びた空と鳥の黒い影、ふわふわした薄の陰が、私の小さなため息を誘った。風田とはよく言ったもので、この砂浜には風のこしらえた、風の模様風紋が何処までも広がりを見せ、散らばる小石には朝日が長い光を当て、美しい造形を作っていた。

朝の散歩から帰るとオババが近くの畑に野菜を取りに行くというので同行した。
適当に朝食を食べていると、珍しくオジジはまだ寝ていた。夕べ呑み過ぎたらしい。それでもダイビングに出かける時間になると、「おい、行くぞ。忘れ物はないな。」と言いながらもう車のエンジンを掛けていた。
ワクワクしながら夫婦浦まで送ってもらう。そこは小さな漁港で、とても静かでかつ風光明媚な所だった。周りの様子を見回して、オジジに手を振りながら、Blue Diveというダイビングスクールに入って行った。
インストラクターは若いお兄さん。簡単な説明を受け、質問票に記入をする。前日、何時間寝たかとか、酒は飲んでいないか、心臓病などの疾病は無いかなど等。取調べ?が済んでウェットスーツを着るのだが、これが大変。もうぴちぴちのスーツなものだから、着るだけで草臥れてしまう。やっとの思いで支度が出来、車に乗って磯の方へ移動した。そこで、水中メガネやボンベ、マウス、フィンを装着し、口での呼吸法を教わる。ゆっくりと深いところまで行く。やがて岩と岩の間をすり抜けて潜って行くと、可愛い南国の魚達が出迎えてくれた。ゆっくり、深呼吸をするようにして、フィンをゆっくりと動かして前へ前へそして、更に深く潜って行った。
着た着た!耳が痛い。鼻を摘まんでエアーを抜く。ふうっと楽になる。それを豆にやると良いという事で、ちょっと変になるとエアーを抜いて更に深く潜行した。時に片耳しかぬけない時もあったりしたが、慌てず騒がず、お兄さんに合図をして待ってもらったり、少し上昇してやり直した。広い所にでると、インストラクターはパフォーマンスをするから見るようにと合図をくれた。彼は仰向けになると、マウスを外し、口からエアーの輪っかを作って見せてくれた。
水深6-7m位だろうか、サンドダラーという、平たいウニの一種が沢山砂に埋まっているのを見つけた。カラフルなイソギンチャクやイソバナの類の珊瑚など、グラスボートや水族館で見るのとは、同じようでもやっぱり違う。
調子に乗って潜っていたら、片方のフィンが外れてしまったけれど、さりげなく装着しなおし、潜水を続けていった。気付くと水深11m位になっていた。段々、体が疲れてきた。方向転換をし、きた方向へと戻って行った。ゆっくり深呼吸をしながらも、心持空気が薄れたようで、吸う空気が不足しだしたような感じがして、より気分的に疲れが増幅してしまった。
それでも、我慢して慌てず、静かにゆっくりと戻って行った。元の磯に着いて立ち上がろうとしたら、上手く立てずちょっと慌ててしまった。そう、フィンが邪魔して立ちにくかったのだ。いや~疲れた疲れた、疲労困憊だった。結局23分間潜り続けたのでした。
浜に上がってボンベやマスクをはずすと、すぐに寝転んだ。喉も渇いていたので、ぐいぐいと水を飲み、しばし伸びていた。
器材の積み込み片付けを済ませたお兄さんとスクールに戻った。スーツを脱いで、暖かいシャワーを浴びる。とっても気持良いはずなのだけれど、気持悪くなって戻してしまった。余程疲れていたのかもしれない。着替えがすむとコーヒーを入れてくれた。何だかとっても美味しく感じた。お兄さんのいう事には
「初めての時が一番疲れるけれど、次からはもっと楽になりますよ。普段から水泳をしているから初心者にしては深くしかも長時間頑張ったですね。」だって。おだててくれた。
折角のスキューバダイビングの体験も証拠写真を撮りそこねたのが残念だった。
すっかり疲れもとれると、日南の風田まで真っ赤なクーペで家まで送ってくれた。
久しぶりに雨が降った。
南郷にグラスボートがあるので、料金その他どんなもんかと様子を見に行った。
ターミナルは閉まってるし、パンフもない。ガラス越しに壁に貼られているスケジュールを読んでみる。1時間おきに船は出る事になっているようだ、でも、閉まっている。埠頭にはグラスボートが係留されてはいる。
南郷の道の駅にでも行けば情報は取れるだろうと、車を走らせ道の駅まで行って見る。
そこには、トロピカルドームが隣接していた。地場産の野菜やらが売られているが客足はとんとない。店員さんにボートの事を聞いてみるが要領を得ない。駅長が来てやっと話が聞けた。
乗船の割引券もあった。予約無しでも時間になれば乗れるらしい。
隣りのトロピカルドームが気になって行って見る。小高い山を車で登って行くと、作物の収穫等の研究所の施設の一部で県の建物だった。それは非常に広く立派だし、入場料はただ。
シーズンオフのせいか、他に客はいない。沢山の建物や温室あり、その中で一際目をひくトロピカルドームに入る。南国独得のアセロラ、バナナ、ドラゴンフルーツ、パパイヤなどの実がなっている。蘭の花も沢山咲いていた。アセロラは真っ赤になったのもあって、丁度研究員の方が来たので、取って良いか聞いてみるとOK!だった。早速幾つか摘まんで食べる。思ったほどすっぱくない。ドラゴンフルーツはまだ小振りだったけれど、きれいなピンク色で誘惑する。

南郷道の駅でムカゴと大福を買って帰る。
日南市内のデパート山形屋に寄り、コーヒーを飲む。
久しぶりで美味しい。このコーヒーコーナーはオジジの溜まり場で、早速、
「これはな、東京から来た娘だよ。一人で来たんだ・・・」
何処に行ってもこの調子、その後、第3家族の家を紹介する!と言って、あちこちに家庭訪問が始まった。
車に乗ってばかりでは運動不足で、プールに案内をしてもらった。市のプールは直ぐそばにあるのに水質管理が悪く雑菌の繁殖で閉鎖されていた。仕方がないので遠くの北郷フェニックスホテルのプールに泳ぎに行った。その帰り、スーパーに寄り夕食材を購入オババの待つ家に帰った。
明日にはボートに確実に乗りたいので、朝一で電話をしてから出掛けて行く事にした。
宮崎といえばポンカンと伊勢海老が美味しい。
良く晴れて気持良い朝だったので、近くの漁港に伊勢海老を買いに行く。前日は16夜だったから月明かりで伊勢海老の漁はできない。そこで船底のいけすにとってあったものを譲ってもらってきた。家に帰って、縦半分に切りそのまま鍋に入れ、味噌汁仕立てにしたのが今日の朝食だった。旨い!
食休みの後、おじじの知り合いの宮浦ポンカン農園に出荷作業の手伝いに出かけた。今年は平均気温が高くて色づきがあまり良くないそうで、やや青いまま取ってきて庭先に広げ熟成させている。そうすると、皮を剥いた時、プチュ!と油が飛ばないので、手などを汚さずに済むそうだ。試しに取り立てのポンカンの皮を剥くと、確かにみかん油が飛んだ。数日寝かした物を剥くと、成る程、殆んど飛ばずに済んだ。
宮浦ポンカン農園には近所の婦人が手伝いに来ていて、色づきの良いポンカンを選別し籠に入れていた。私はそれらを選別機にかけ、S、M、L、2L、3Lと仕分けし、籠に品物が8割ほどになると籠を交換し積み上げていった。どんどんと選別し、気付くとコンベアの上を転がる籠は無くなっていた。少し腰が痛くなったが、気持のよい汗をかいた。
その後、みかん山に出かけて行くと、ニューサマーオレンジには紙袋がかけられ、ポンカンはそのまま太陽をいっぱいに受けて輝いていた。急斜面にはレールが敷かれ刈取られたポンカンをトラックへと運んでいた。

みかん山からの海岸の眺めは素晴らしい!白い砂浜に水色から濃い青のグラデーションの海、さすが南国。山を下っていくとアロエの花が咲き乱れてるし、紫のすみれもいっぱい見かけた。
お腹がすいてきたので”かにまき”を食べに行く。北郷に流れる川から獲れた川ガニをミキサーにかけてお汁にした珍味である。どろどろして見た目は悪いが、その味は複雑でコクがあり殻っぽさはミジンも無い。ここ宮崎北郷の特産とか。クセになりそうな郷土料理。おじじは「お前にこれを食べさせたかったんだぞ」と、「どうだ、旨いだろ!」うんうん旨い!
「お前がな、すっと宮崎に来てくれたのが嬉しいんだよ。」と何回も言ってくれる。
夕闇が迫る頃、おじじとおばばの3人でかんぽ日南温泉に出掛けていった。するとそこで夕べ会った姉ちゃん夫婦と偶然にも出会い、夕食を共にして帰って来た。